防災ギター

アクセルとブレーキ、そしてハンドルが効かない(アビガンを例に・・・)


最近の新型コロナに関する新聞記事を基に、新型コロナの現状を自分なりに整理してきました。連日、色々な側面から想うところを書いてきましたが、結果的に、頭の中は整理されたというよりも、むしろモヤモヤ感が増幅した感じになってしまいました。そのモヤモヤの一要因である新型コロナ治療薬の候補品「アビガン」について、前回に続いて以下に記します。

アビガンは国内での3つの研究(観察研究、特定臨床研究、単盲検治験)で有効性に対する科学的根拠が乏しいことを踏まえ、その後、薬の客観的な効果の評価に用いられる二重盲検試験をクウェートや米国で行いました。その結果、クウェートでは中等症と重症患者を対象に治験を行いましたが、効果は認められませんでした(軽症では効果あり)。軽症と中等症を対象とした米国の治験は継続中で結果が出ていません。(朝日新聞2021年5月5日)

今回、アビガンの製造元である富士フィルム富山化学が、国内での二重盲検試験を新たに始めたと発表しました。対象は50歳以上の男女316人。発熱などの症状が出たばかりの軽症者で、基礎疾患があるなど重症化リスクがある患者に絞り、薬の効果が出やすいようにして10月末まで有効性や安全性を調べると新聞に書いてありました(朝日新聞2021年5月5日)。

次はアビガンの安全性について書きます。

アビガンは妊婦が服用すると胎児に重い副作用が出る恐れがあります(朝日新聞2020年5月13日)。また新型インフルエンザの3倍量を服用しないといけない。より慎重になるべきだ(日経ビジネス2020.05.18、15頁、朝日新聞2020年5月27日)などが書かれています。私も全く同感、そのとおりだと思います。

「アビガン(一般名:ファビピラビル)」の添付文書(製品情報が記載されている医療従事者向けの文書)を読むと、「催奇形性」という文言が眼に入ってきます。「催奇形性」は、くすりの様々な副作用の中でもかなり慎重に考えなくてはいけないない内容です。

2019年4月の抗インフルエンザウイルス剤「アビガン」の添付文書中の「妊婦・産婦・授乳婦への投与」の項では、(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しない(動物実験において、臨床暴露量と同程度又は下回る用量で初期胚の致死(ラット)及び催奇形性(サル、マウス、ラット及びウサギ)が認められている)、(2)授乳中の婦人に投与する場合には、授乳を中止させること(本剤の主代謝物である水酸化体がヒト母乳中へ移行することが認められている)・・・と記載されています。

従来の新型インフルエンザ患者が服薬した後、薬物が体内で溶解し、消化管から吸収されて血中に存在する薬物濃度で、多くの動物(サル、マウス、ラット、ウサギ)では、「催奇形性」すなわち妊娠後に生まれた胎児に奇形が発生しています。仮にアビガンを新型コロナウイルス患者に投与する場合は、従来の新型インフルエンザ患者への投与量の3倍量を服薬することになります。よってこれらのことは、新型コロナウイルス患者の妊婦等がアビガンを服用した場合には、胎児の奇形が発生するリスクが従来の新型インフルエンザ患者よりも高くなるということを意味します。

このブログを読んでいる皆さんは、サリドマイド薬害事件(1950年代末から60年代初めに世界40か国以上で販売された鎮静・催眠薬を妊娠初期に服用すると、胎児の手/足/耳/内臓などに奇形(催奇形性)を起こした)をご存知でしょうか?50年近くも前の事ですが、世界中で発生した大きな薬害のことです。

このように通常の医薬品よりも慎重に取り扱わないといけないアビガンを、どうして安倍前首相(政府)は、新型コロナに対して有効性を示すデータがまだ出ていないのに、一方、安全性には重大な懸念材料が既に分かっているのに、「月内承認をめざす」と異例の発言をしたのでしょうか?・・。

「新型コロナウイルス治療において確立した治療法がない中で、安倍政権は、日本初の治療薬誕生という目標は、国民に訴える「希望」の象徴になるととらえた。そして首相官邸側は前のめりでこのアビガンを推すことになる。複数の治療薬候補がある中で、安倍前首相がアビガンだけに触れることも度々だった」(朝日新聞2020年5月27日より)。この記事を読んだとき、サリドマイド薬害事件の事がすぐ頭をよぎり、なんか変だなと思いました。

政府は昨日、緊急事態宣言を31日まで延長すると決めました。今回の緊急事態宣言は、大型連休を使った短期集中型とのことでしたが、いとも簡単に延長を決定。思わずため息が漏れてしまいました。 

世の中は、クルマと同じで、上手くアクセルとブレーキが働いて、またハンドルを操作する役目がいないと、適切な方向にいいスピードで前に進まない・・・・。「日本号」というクルマは、今、まっすぐ前に進めず、グルグルあっちこっち蛇行運転し始めてる気がします。